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From The Pan-Pacific
Project 
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いわき地平線プロジェクト
十数メートルの廃船は五つに分割させ、美術館への搬入見通しがようやくついた頃、蔡さんから新たな要望が出た。「塩がほしい」、龍骨の周りに塩の海を作りたいと言うのだ。どのくらいの量が必要か問うと10トン位あればいいと言う。10トンの塩といえば大型ダンプカー1台分、金額にしたらどのくらいになるのか想像もつかない。またしても新たな難題である。

前に小名浜港で岩塩の積み降ろしをしている光景を見たことを思い出し、ともかく港に向かった。岩塩のある場所に蔡を案内すると「白くてキラキラしているのでなければだめだ」と言う。途方にくれながら、廃船を置くための倉庫でお世話になった小名浜海陸運送の佐川さんの所へ寄ってみた。ところがそこで実に意外な話が飛び出してきたのだ。


海水から塩を製造している所が国内に7ヶ所あり、そのひとつが小名浜にあるというのだ。驚いた。地元に住んでいて始めて聞く話だった。早速その塩を製造している(株)日本塩回送小名浜を紹介してもらい訪ねた。そしていろいろな紆余曲折を経ながら、最後には10トンもの塩を無料で提供していただくことになった。人と人とのつながりの不思議を知った。ひとつの扉を開くと次から次へと開けてつながってゆくのだ。


10トンの塩は、始めそのまま美術館の会場に敷き詰められることになっていたが、作品や設備を錆びさせてしまう可能性があるという問題が出てきた。ここでもまた蔡の発想力が発揮される。

この10トンの塩は、干物を入れる発泡スチロールの皿に小分けされ、その中にいわきで採れるさんまやいわしの干物を詰めてラッピングされた。こうして会場には、塩の海の中でまるで生きた魚がおよいでいるような光景が展開された。

塩を提供してくれた人、干物を作る人、気の遠くなるようなラッピングの作業をしてくれた人、全ては人と人とのつながりの中から作品が生み出され、「ここの人々と一緒に時代の物語をつくる」というプロセスが完結していくのだ。